幸せな気分にしてくれる帽子

あまりにも見慣れてしまったせいか
近頃は驚きを感じる帽子に出会うことが少なくなってしまった。

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天気もいいので、秋冬物のセールを冷やかしながら
ぷらぷらと散歩でもしようかと街に出た。
通り沿いのアンティークショップには、目的もないのについ入ってしまったのだが
お店の奥に掛けてあったその帽子に多分呼ばれてしまったんだと思う。

一目で手の込んだ作品だとわかるそれは遠目には淡いスカイブルーに見えるのだが、ピンク・イエロー・オレンジ等々さまざまなニュアンスカラーのオーガンジーが程良い分量で埋め込まれていて、その上品な色彩のハーモニーが見事。
素材をブレード(リボン)状にして作り上げられた形は、最後は被り手のセンスに委ねられるとしても優雅そのもの。
色がたくさん散りばめられていてどんな服にも合わせやすい帽子というのは
実は私も狙っているところなのだが、その種類の帽子ではハイクラスに位置づけられるのに相違ない。
もちろん羽根のように軽くて外出時だけならペタンと潰して持ち歩ける。

「被ってみてもいいですか?」
その日の私のイデタチはおよそそれには似つかわしくない、ご近所散歩チックなブラウン系のカジュアル。
だが帽子を頭に載せた瞬間、やはりその魅力を再認識したのだった。

決して主張しすぎることなく、顔にうっすらとした影を落とし、かすかに揺れるブリムが横顔を絶妙に隠す。「どんな人なのかしら?顔が見たいわ~」という程度に隠しつつも、きれいに見せてくれる帽子なのだ。

被った自分の映る鏡を覗きこみ、図らずも固まっていた私にお店の人が声を掛けてきた。
「被った人の魅力を引き出してくれる帽子ってあるんですよね。ま、一生懸命探したところでそう簡単には見付からないのだけれど」

心から同感!
普段と違った表情を引き出してくれる、被り手と一緒に輝く帽子か…。

もちろん、私の出会ったこの帽子が誰にとってもそういう存在であるわけではない。
ただ、私が今日感じた幸せな気分を他の人にも感じてもらえるように
常に誰かのためのそういう帽子を作っているという気持ちを忘れずにこれからも帽子と向き合っていこう。

そんなふうに素直に思えた新年早々の出来事だった。