お食事の時に被ったままでいい帽子

マダム「私、面倒くさがりなの」
私「そうですか~?」

マダム「でもさり気なくおしゃれしたいの」

私(頷く)

マダム「お食事の時にさっと被るだけで決まる帽子が欲しいわぁ。あまり仰々しくならないのがいいわねえ」

私「そうですよね~♪そういうの、私も欲しいです!具体的なイメージはあるんですか?」

マダム「ないわよ?」

私「…」

しかしそこで話は終わらず。
ヒアリングがてらいろいろな帽子の画像をお見せしたりして
せめてイメージのかけらでも拾えれば…と前のめりになってご希望を伺ったのですが

「薄い生地のお洋服に合わせやすいのがいいわね」
「色はそうねえ…ペールピンクやベージュ、グレー。つばのあるのがいいわ~」

お話を進めていくと
割とお好みがはっきりしていること
オーダーを受けるには着地点があまりにも漠然としているということが
よーくわかってきました。
どうしよう…お受けしたとして形に出来るのだろうか?

要望があればそれに応えたいと思ってしまう作家性分の故
以前帽子をお買い上げ頂いたこともあり、
作風もわかっていらっしゃるお客様でしたので
少しお時間をもらって、私の勉強を兼ねて自由に制作させて頂いたものを
お見せするという形をご提案しました。

ウキウキで帰られたマダムの後ろ姿が
なかなかのプレッシャーになったことは言うまでもありません。
それが今年5月の話です。

………

形から攻めるか、素材から攻めるか…
もやもやしながらもまずは生地探し。
ピンクやベージュやグレー。
あくまでも希望として受けた色味ですが、、
ないのですよ、これが。
色から離れて素材感だけでも使えそうなものを…と探しても
なかなかピンとくる布に出会えない。

夏が過ぎ、秋になり、展示会をこなして
そうこうしているうちに11月。
さすがに焦ってきました。

気に入ってもらえるかどうかはさておき
何とか年内に形にしておきたいし
先方も急がないと言いつつ
心待ちにしているようだし、困った困った。

それでも脚を使って材料を探し
手を動かして試行錯誤しながら
何とか自分でも納得のいくかたちが出来上がりました。
………

いよいよ自由制作お披露目の日。
差し出した帽子をじっと見るマダムが「こりゃなんだ?」
と言うような表情をしていたので
私もドキドキでしたが
被ったとたんに合わせるドレスとアクセサリーが閃いたらしく
結果的にはとても気に入って頂けました。

ヘッドドレスほど派手にならない
びっくりするほど軽いシルバーカラーのコワッフです。
手持ちの黒蝶真珠のネックレスがぱっと思い浮かんだそう。

マダムのドレスアップ姿、私も拝見したいです。