最高の誉め言葉

帽子をつくることを仕事にしていこう!と心に決めた頃は、売れるとか売れないとか、値段云々関係なく、とにかく自分がいいと思うものを創りまくっていた。その方との出会いも丁度その頃。たまたまお店に置いてあった私の帽子に目を留めてくださり、ご購入頂いた。形は何の変哲もないクロッシェ。ただ、黒地に色々な糸が織り込んであるそのシルク生地はとても縫いづらく、見かけよりは苦労して仕上げた作品であったから「あ~、やっぱり素材がいいと売れるんだな~」なんて単純に思った記憶がある。後日、お店の人から「帽子を買ってくれたお客さまが作家に会わせて欲しいと言ってますがどうしますか?」と連絡があり、私は何も考えず1つ返事で承諾した。当時はとにかく、どんな人が自分の帽子を選んでくれて、どんな風に被りこなしているのか、ただただ興味があったから。

約束の時間にその喫茶店に行くと、その方は既にコーヒーを飲みながら寛いでいた。白髪の上品な、でもとても可愛らしい方だ。私が作ったシンプルな帽子に小さな宝石が埋め込まれたピンブローチを上手にあしらって、華やかさと動きを加え、見事に被りこなしていた。お話する前から遠目にこの姿を見て「私の帽子は本当に幸せだわ」と心から思った。

初対面の挨拶をすませると、彼女は私の帽子の話を始めた。「この帽子の一番いいところはね、縫製なのよ。」

生地でも形でも使い勝手でもなく縫製?意外ではあったがすごく嬉しかったのを覚えている。一商品としてお店に並んでしまうとよっぽどでない限り、買う側の人に作る工程での試行錯誤や作り手の苦労は伝わらず、作品の印象のみで価値が決まってしまう。美しい縫製は当然のことなのだが、そこを誉めてもらえるのはあの難しい生地だっただけに、自分が作家としてやっていく価値を認めてもらえたという気がして今の私の原動力となっている。

あの出会いから何年経っただろう。頭の小さな彼女は相変わらずジャストサイズの帽子をオーダーしに来てくれる。私は精一杯期待に答えるべく、新しい作品を彼女のために創り続けている。加工が面倒な素材や手間のかかる変わったものでも、彼女の誉め言葉を思い出し、被っている姿を想像すると俄然、やる気になるから不思議である。彼女がいるから今の私がある。

「最高の誉め言葉」への2件のフィードバック

  1. なんと素敵な出会い。。。(^^*)
    Mihoo!さんの帽子からは、優雅で軽くて素敵で、
    Mihoo!さんのお人柄がそのまま伝わってくるなと思います☆
    私もそんな帽子を、そしてそんな出会いを作り出せるように、
    がんばりますっ
    また5月、お会いできるの楽しみにしております~♪

  2. edocoromoさん、お久しぶり!コメントどうもありがとう。実はこの方、最近体調を崩してしまって入退院を繰り返しています。何も出来ないからせめて…って感じの自己満足エッセイだったのですが嬉しいです。出会いって不思議だけど必然の縁だと思います。いい出会いで自分の進むべき道まで開けてくる気がするのよね。edocoromoさんにも出会えて本当に良かった!これからもよろしくね♪

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