やっぱり言えない…

「おはようございま~す!」家族の次に挨拶をするのは大抵、清掃員のおじさんだ。集合住宅の共有部分は彼らの真面目な勤務のおかげで常にキレイな状態が保たれている。ところが、近頃エレベーターに乗ると《ぷわーん》と異臭のすることがあって、初めは「今日はジメジメしてるしなっ!」とか「どこかのペットが粗相しちゃったのかな?」なんて思うことにしていた。しかしどうやら原因は違ったようだ。ある時、ゴミ捨て場に立て掛けられていたモップの近くを通った瞬間、エレベーターと同じ臭いだということに気付いた私。洗濯物の生乾きとシーズン初使用のエアコンと黴っぽい部屋。これらのブレンドと言うに相応しいその臭いは、モップを使用して清められるありとあらゆる所にせっせと擦り込まれていたのであった。それからというもの、おじさんが丁寧にモップがけしていると気になって仕方ない。でもいつも安定して供給される屈託のない笑顔と、悪気のカケラもない丁寧な仕事ぶりを見てしまうとそんな指摘、出来るわけがない。誰か代わりに言ってくれないかな…、と淡い期待を寄せながら相棒に打ち明けたところ「そんなこと言えない、自分で言いなよ~!」とあっさり断られてしまった。

別の日の話。レストランに行った。お値段も雰囲気もそこそこのイタリアン。ここのバジリコパスタが大好きで、そのためにリピートして訪れていると言っても過言ではない。いつもと同じバジリコとワインを楽しんでいると、隣のテーブルの客がいきなり携帯電話で話し始めた。その長いこと長いこと!聞きたくない話が耳に勝手に入ってくるので、こちらも会話に身が入らない。みんなの視線は彼に刺さっているはずだが、本人は構う様子もない。私は迷わず店員を呼んで「お店に迷惑な人は注意しないとっ!いいお客さんが減っちゃいますよ。このままにしておくなら私ももうこのお店に来るのやめるわね?」なーんてちょっと偉そうに言ってしまった。若い頃は思っていても言えなかったのに、今では抵抗がないというのはやはり歳のせいだろうか?

でもやっぱり掃除のおじさんにはモップがくさいなんて言えない。どっちも言ってあげたほうが親切なのに何故なんだろう。

「やっぱり言えない…」への2件のフィードバック

  1. 言ってあげたほうがその人のタメになるんですけど
    なかなか言えない物ですよね。
    ぼくは小心者なのでよくわかります。

  2. あ~※さん、わかっていただけます?でもねぇ、今日も臭かったんですよ…(笑)

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